前回は国民年金の任意加入制度について深掘りしてみました。
国民年金の未納期間がある場合、
- 60歳からどの程度働くか
- 任意加入制度(国民年金)か厚生年金か
この2点について検討しなければいけません。未納があるため年金を少しでも増やしたいと考えている場合、60歳から任意加入制度なのか、厚生年金なのか、という検討事項があります。任意加入制度と厚生年金は併用できないため、どちらかを選択しなければなりません。
今日は、60歳以降も働くことを前提に、任意加入制度と厚生年金のどちらがより受給年金額が増えるのか、シミュレーションしてみたいと思います。
年金受給額の試算に使用したツール
年金の試算には「公的年金シミュレーター」を使用しました。
※今回の試算には2023年11月現在の情報を使用
厚生年金の加入資格
年金のシミュレーションに入る前に、厚生年金の加入資格について確認します。日本年金機構によると・・
《短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大》
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html#cms01
原則、4分の3、75%の労働日数があれば厚生年金の加入資格があります。これを下回っても、一定の条件をクリアすれば加入できます。
原則ルールである4分の3というのは、
- 1週間の勤務時間
- 1ヶ月の勤務日数
いずれも4分の3を超える必要があります。例えば1ヶ月20日の勤務としている会社では、月当たり15日の勤務で、週当たりの時間については、30時間前後は働く必要があるようです。
勤務時間/日 |
週当 たり勤務時間 |
厚生年金要件 4分の3 |
7.5時間 | 37.5時間 | 28.125時間以上 |
8時間 | 40時間 | 30時間以上 |
(1)22~59歳:厚生年金
では、早速シミュレーションしてみたいと思います。
22~59歳までについては、年収300万円で試算してみます。
受給額は約135万円、月額11.3万円となります。
(1)60歳から:任意加入制度を利用
次に、60歳から任意加入制度で国民年金を支払い、未納分を補填するケースです。62歳まで、3年(36ヶ月)分支払うと仮定します。
(2)60歳から:厚生年金に加入
では、厚生年金に加入するとどうなるでしょうか。
年収、加入期間ごとの年金受給額を表にしてみました。
例えば、年収144万円で60~61歳の2年間、厚生年金に加入すると、年金受給額は約141万円になります。 ※年金受給年齢:65歳
収入 | 加入期間ごとの受給額 (年額・万円) |
|||
月収 (万円) |
年収 (万円) |
60~61歳 (2年) |
60~62歳 (3年) |
60~63歳 (4年) |
12 | 144 | 141 | 144 | 146 |
15 | 180 | 141 | 144 | 147 |
18 | 216 | 142 | 145 | 148 |
21 | 252 | 142 | 145 | 149 |
厚生年金保険料
2023年現在、厚生年金保険料は下記の通りとなります。
出典:日本年金機構 厚生年金保険料額表
保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険) https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/index.html
厚生年金保険料は税や保険料を引く前の、賞与等も含めた収入(標準報酬)ごとに決まっており、さらにその保険料を事業主と折半するかたちになります。
例えば、月収12万円の場合、等級5となり、折半した保険料は10,797円となります。
月収 | 厚生年金保険料(折半額) |
12 | 10,797 |
15 |
13,725 |
18 | 16,470 |
21 | 20,130 |
任意加入制度と厚生年金を比較~年金額を6万円増額~
では、任意加入制度と厚生年金を比較してみましょう。いろんな切り口での比較ができそうですが、ここでは受給年金を6万円、10万円増やすための条件を両者で比較したいと思います。
任意加入制度と厚生年金の違いを細かく見ていきましょう。
年収
厚生年金は、仮に年収300万円(月収12万円)としています。時給1000円で週4日働き、一般に厚生年金に加入できるようなレベルです。任意加入制度は国民年金なので、年収は考慮しなくてかまいません。
勤務日数
厚生年金に加入するには、所定の勤務日数の4分の3以上働かなければなりません。それより少ない場合、条件付きで加入できることもあります。詳しくは日本年金機構のこちらのページを参照ください。任意加入制度は国民年金なので、勤務状況は関係ありません。
保険料
任意加入制度は国民年金保険料を支払うことになります。
一方、厚生年金は月収によって保険料が決まっています。月収が多いほど多くなり、事業主と折半して支払います。月収12万円の場合、約1万円の保険料ですが、折半なので約2万円の保険料を納入していることになります。支払う保険料としては、国民年金保険料16,520円よりも厚生年金の方が安くなっています。
加入期間、保険料総額
年金額を6万円増額させるのに、任意加入制度は3年、厚生年金では2年の加入となり、支払う保険料としては、前者が約60万円、後者が約25万円と、2倍以上の開きが出ています。
任意加入制度と厚生年金を比較~年金額を10万円増額~
次に、年金額を10万円増額させるシミュレーションをしてみましょう。厚生年金の年収は前項と同様300万円とします。
年金受給額を10万円増やすには、任意加入制度では5年、厚生年金では4年の加入期間となります。保険料総額はやはり厚生年金の方が安く、約2倍近くの開きがあります。
任意加入制度と厚生年金を比較~選ぶ際のポイントと注意点~
任意加入制度と厚生年金を比較すると、厚生年金の方が保険料が事業主と折半のため、支払う保険料が安く年金額も増額されます。コスパの点では、厚生年金を選ぶとよいでしょう。ただし、どの程度働くかは個人により異なるため、働き方とどの程度年金を増やしたいのかを総合的に考えるのがよいと思います。
任意加入制度と厚生年金の選び方
任意加入制度と厚生年金のどちらか迷ったら、
- 「年金額を増やす」を優先している人は、できるだけ厚生年金に入る
- 「余裕を持った働き方」を優先している人は、可能な限り未納分を任意加入制度で補填する
このように考えるとよいでしょう。
任意加入制度の注意点
任意加入制度は、下記のような特徴があります。
- 60歳以上65歳未満
- 20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満
- 厚生年金に加入していない
任意加入制度で納められる保険料には、金額、時期ともに限りがあります(トータルで480ヶ月まで、65歳未満まで)。
また、厚生年金と併用ができない点も念頭に置くようにしましょう。
厚生年金の注意点
厚生年金の注意点としては、
- 保険料を納められるのは70歳未満まで
- 年金をもらいながら働く場合→老齢厚生年金+収入が一定の額(48万円)を超えると年金が減額される(在職老齢年金)
があります。在職老齢年金は、年金をもらいながら働きたいと思っている人が対象となります。厚生年金でたくさん働いて一定の額を超えると年金が減額されるというものです。詳しくは日本年金機構のこちらのページをチェックしてみてください。
任意加入制度と厚生年金の選び方 まとめ
今日は、国民年金の未納がある場合の、60歳以降の公的年金について検討してみました。
- コスパを重視し年金額をできるだけ増やしたいなら、厚生年金に加入しできるだけ長く働く
- ほどほどに余裕を持って働きたい場合、未納分は任意加入制度で可能な限り納めておく
人によって働き方も違ってくると思いますが、大きく分ければこのようなことが言えると思います。今後年金制度も変わると思いますので、注視しながらまたトピックがあれば記事にまとめたいと思います。